
学生時代、書類の手続きで1年半ぶりに実家に帰った時のこと。
本当は泊まる予定だったんだが、次の日に遊ぶ予定が入ってしまったので
結局日帰りにしてしまった。
母にサインやら捺印やらをしてもらい、帰ろうとして玄関で靴紐を結んで
いると、父が会社から帰ってきた。
口数が少なく、何かにつけて小言や私や母の愚痴を言う父親のことが苦手で、
一緒に居ると息苦しさを感じていたの私は、父が帰宅する前に帰って
しまいたいというのも、日帰り、ひいては通えない距離の学校を選んだの
理由の一つだった。
父が、「お前、泊まるんじゃなかったのか」と訊いたので、
「ちょっと忙しいから」とぶっきらぼうに答えると、手に持っていた
ドーナツの箱を私に差し出し、
「これやるから、電車の中で食え。道中長いだろうから」と言った。
駅に着くと、電車は行ったばかりのようで人気がなく、30分は
待たされるようだった。
小腹が減ったので、父からもらったドーナツの箱を開けた。
3個ずつ3種類入っていた。
家族3人でお茶するつもりだったんだなぁ。
でも、私が9個貰っても食べきれないよ。
箱の中を覗き込みながら苦笑した。
その直後。
あぁ、あの人は凄く不器用なだけなんだろうな―。
ふとそう思うと、涙がぼろぼろ出てきた。
様々な感情や思い出が泡のように浮かんでは消えるけど、どれもこれも
切なかったり苦かったりばっかりで。
手持ちのポケットティッシュが無くなっても、ハンカチが洗濯して干す前
みたいに濡れても涙は止まらなくて、
結局、一本あとの電車が来るまで駅のベンチでずっと泣き続けていた。
「このポッケすごいねんで!」
そう言って幼稚園の
制服のポッケを
パンパン叩いてた
友達Aの息子
ポケットには
ハンカチ、ティッシュ、お菓子
小指の先サイズのドラえもん
母親とのプリクラ
それにムシキングカード等々
その子にとっての
宝物が詰まっていた
「ポッケ叩いたら
欲しいもんなんでも
出てくるねん(`ヘ´)」
それ聞いて少し
イジワル言ってみた
「じゃあミニカー
出してみて」
前から欲しがっていて
持っていない事は知っていた
その子はムキになって
「あるもん!!フン!フン!」
とポケットをパンパン叩いて
宝物を散らかしていった
私はその子の隙を見て
あらかじめ買っておいた
ミニカーをそっと
ポケットに忍ばせた
「フン!…あっ!!…フフ~ン」
得意気に出てきた
ミニカーを私に
見せびらかしてたが
物陰で(´・ω・`)??
みたいな顔してた
かなり萌えた
ある日Aが死んだ
脳溢血だった
職場で突然倒れ
そのまま逝ってしまった
友達はいわゆる
シングルマザーで
家族は60過ぎたご両親だけ
私達も悲しみに暮れる
間もほとんど無く
葬儀の準備の手伝い
関係者への連絡などで
忙殺されていた
その間、彼はずっと
ジュウレンジャーの絵本を
何度も何度も読んでいた
通夜が始まり
しばらく経った頃
彼が居ないことに気付いた
私と手の空いてた人が
付近を探した
しばらく探していると
友達Bから着信
小さな公園で見つけたとの事
急いで駆けつけると
Bは公園の入り口で
どういうワケか
うずくまって泣いていた
フッ…と公園の中を見ると
彼がいた
暗い街灯の下
「……お母さん、お母さん」
と泣きながら必死に
ポケットを叩いていた
周りには宝物が
散らばっていた
恥ずかしながら20代女
その子を慰める前に
しばらくの間
泣き崩れてしまいました
声を殺して抱きしめる事しか
出来なかった
いつの間にか集まってた
みんなも泣いていた
あの日は全てが
悲しくて仕方なかった
あれから二年
もうポケットは
叩く事は無くなった
代わりに
「ぐらふぃっくあーてぃすと
になんねん(`ヘ´)」
が口癖になった
最近、ずっと絵を
描いてるのはソレだったのか
どうやらBが
「お母さんの夢やったんよ」
と教えたらしい
その話を聞いた瞬間
また泣いてしまった
子供の言葉で、何だか
こっちの方が
救われた気がしたんです
少し画家と混同している
みたいだけど、頑張れ!!
君には5人の
お母さんがついてるぞ!
その日までちゃんと
Aの分まで全力で
見守ってやるからね