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泣ける話

2010/06/01 (Tue)

俺の母親は、俺が

2歳の時に癌で死んだそうだ

まだ物心つく前のことだから

当時はあまり

寂しいなんていう感情も

あまりわかなかった

この手の話でよくあるような

『母親がいない事を理由に

いじめられる』

なんて事も全然なくて

良い友達に恵まれて

それなりに充実した

少年時代だったと思う

こんな風に片親なのに

人並み以上に楽しく

毎日を送れていたのは

やはり他ならぬ父の

頑張りがあったからだ

と今も思う

あれは俺が小学校に入学して

すぐにあった父母同伴の

遠足から帰ってきた時の事

父は仕事で忙しいことが

わかっていたので

一緒に来られないことを

憎んだりはしなかった

一人お弁当を食べる俺を

友達のY君とそのお母さんが

一緒に食べようって

誘ってくれて寂しくもなかった

でもなんとなく、Y君の

お弁当に入っていた星形の

にんじんが何故だか

とっても羨ましくなって

その日仕事から

帰ったばかりの父に

「僕のお弁当のにんじんも

星の形がいい」

ってお願いしたんだ

当時の俺はガキなりにも

母親がいないという家庭環境に

気を使ったりしてて

「何でうちには

お母さんがいないの」

なんてことは父には

一度だって

聞いたことがなかった

星の形のにんじんだって

ただ単純にかっこいいからって

羨ましかっただけだったんだ

でも父にはそれが

母親がいない俺が

一生懸命文句を言って

いるみたいに見えて

とても悲しかったらしい

突然俺をかき抱いて

「ごめんな、ごめんな」

って言ってワンワン泣いたんだ

いつも厳しくって

何かいたずらをしようものなら

遠慮なくゲンコツを

落としてきた父の泣き顔を

見たのはそれがはじめて

同時に何で親父が

泣いてるかわかっちゃって

俺も悲しくなって台所で

男二人抱き合って

ワンワン泣いたっけ

それからというもの

俺の弁当に入ってるにんじんは

ずっと星の形をしてた

高校になってもそれは続いて

いい加減恥ずかしくなってきて

「もういいよ」なんて

俺が言っても

「お前だってそれを見る度

恥ずかしい過去を

思い出せるだろ」

って冗談めかして笑ったっけ

そんな父も、今年結婚した

相手は俺が羨ましくなるくらい

気立てのいい女性だ

結婚式のスピーチの時

俺が『星の形のにんじん』

の話をしたとき

親父は人前だってのに

またワンワン泣いた

でもそんな親父よりも

再婚相手の女の人の方が

もらい泣きしてもっと

ワンワン泣いてっけ……

良い相手を見つけられて

ほんとうに良かったね

心からおめでとう

そしてありがとう、お父さん。

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