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泣ける話

2012/10/16 (Tue)
小学生のとき、少し足し算、引き算の計算や、会話のテンポが少し遅いA君がいた。 
でも、絵が上手な子だった。 
彼は、よく空の絵を描いた。
抜けるような色遣いには、子供心に驚嘆した。 

担任のN先生は算数の時間、解けないと分かっているのに答えをその子に聞く。 
冷や汗をかきながら、指を使って、ええと・ええと・と答えを出そうとする姿を周りの子供は笑う。
N先生は答えが出るまで、しつこく何度も言わせた。 
私はN先生が大嫌いだった。 

クラスもいつしか代わり、私たちが小学6年生になる前、N先生は違う学校へ転任することになったので、
全校集会で先生のお別れ会をやることになった。
生徒代表でお別れの言葉を言う人が必要になった。
先生に一番世話をやかせたのだから、A君が言え、と言い出したお馬鹿さんがいた。
お別れ会で一人立たされて、どもる姿を期待したのだ。 

私は、A君の言葉を忘れない。 

「ぼくを、普通の子と一緒に勉強させてくれて、ありがとうございました」 

A君の感謝の言葉は10分以上にも及ぶ。
水彩絵の具の色の使い方を教えてくれたこと。
放課後つきっきりでそろばんを勉強させてくれたこと。 
その間、おしゃべりをする子供はいませんでした。
N先生がぶるぶる震えながら、嗚咽をくいしばる声が、体育館に響いただけでした。 

昨日、デパートのポストカードなどに美しい水彩画と、A君のサインを発見いたしました。 

N先生は今、僻地で小学校で校長先生をしております。 
先生は教員が少なく、子供達が家から2時間ほどかけて登校しなければならないような 
過疎地へ自ら望んで赴任されました。 

N先生のお家には、毎年夏にA君から絵が届くそうです。
A君はその後公立中高を経て、美大に進学しました。
お別れ会でのN先生の挨拶が思い浮かびます。 

「A君の絵は、ユトリロの絵に似ているんですよ。
みんなはもしかしたら、 見たこと無いかもしれない。
ユトリロっていう、フランスの人でね、街や 風景をたくさん描いた人なんだけど。
空が、綺麗なんだよ。 
A君は、その才能の代わりに、他の持ち物がみんなと比べて少ない。 
だけど、決して取り戻せない物ではないのです。
そして、A君は それを一生懸命自分のものにしようしています。
これは、簡単なことじゃありません!」 

A君は、空を描いた絵を送るそうです。
その空はN先生が作り方を教えた、
美しいエメラルドグリーンだそうです。 

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