
十年ぐらい通っているんですがその店どんなに混んでいても必ず一つテーブルが予約席に
なってるんですよ、十年通っていますが一度もその席にお客さんが座っているのを見た事
がなくおじさんに聞いても教えてもらえませんでした、しかし十年目にしてようやくおじ
さんが重い口をひらいてくれました。 おじさんの話だとその席はまだおじさんが店を出
したばかりの頃 初めて来た女のお客さんが座っていた席でのちになんとおじさんの奥さ
んになられた方がいつも座っていた席だそうです、奥さんはずいぶん前に亡くなられたそ
うでいつでも食べに来れるように予約席にしてるそうです、僕は「おじさんかっこいいね
~」と言うと照れくさそうに笑っていました。僕はそんなふうに何年たってもいつでも変
わらない気持ち、全てを大切にしているおじさんだけのスパイスがあるから美味しいお料
理が出せる店なんだな~とつくづく思いました。僕もそうゆう気持ちを大切にしようとあ
らためて思う事ができました。
オレのおじいちゃんは戦争末期、南方にいた。
国名は忘れたけど、とにかくジャングルのようなところで
衛生状態が最悪だったらしい。
当然マラリアだのコレラだのが蔓延する。
おじいちゃんの部隊も例外ではなく、バタバタと人が倒れて
いったそうだ。
ただ、その頃には治療薬も開発されていて、それを飲んで命
を永らえた人も多かったらしい。治療班に手渡されていた薬
で何人かの人が助かったそうな。
しばらくして、おじいちゃんが期せずして高熱にうなされる
ようになった。病気に感染したのだ。
一方でおじいちゃんの部下の1人にも同じような症状が襲った。
二人とも薬を飲めば助かる程度のものであったらしいが、
なんとその部隊には残余薬が一つしかなかった。
部下は「あなたが飲んでください、あなたがこの部隊の指揮官ですから」
と搾り出すような声で言ったらしい。立派な部下を持ったおじいちゃんは
幸せな人間だったとおこがましいけどオレは思う。
しかしおじいちゃんはたった一言こう言ったらしい。
「貴様飲め!」
おじいちゃんはその後間もなくして死んでしまった。
この話はつい最近死んだおばあちゃんから何度も聞いた。
薬を飲んで生き残って帰国した兵隊さんはその後おばあちゃんを
なにかにつけ助けてくれたらしい。オレも一度だけお会いしたこと
がある。まっすぐで立派な男だった。おじいちゃんも素晴らしい命
を救ったものだ。
おばあちゃんの口癖は
「貴様…って、いい言葉ね…」
だった。おじいちゃんの死後、もう何十年も経つのに
毎日毎日仏壇のおじいちゃんに話し掛けていた。
そして眠ったまま死んでいった。
明治の人間はすごい。オレはいつもそう思う。