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泣ける話

2011/07/29 (Fri)
最初って涙なんか出なかった。
親戚や友達に連絡して、それはもう事務的にお通夜とかの準備をしなければいけなくて。
涙を流す暇がないっていうのかな。オヤジも姉ちゃんも、同じように忙しくて悲しみにひたる余裕はないって感じでした。
忙しさに追われたから、俺は今日の一日を冷静でいれたのかも。

一度、家に帰ってくる時に三人で夕飯食べたんだ。ハンバーグ食べた。
オヤジが、「うまくないなぁ…か…」
って、言葉詰まらせてイキナリ泣き出したんだ。子供みたいに。

俺はすぐ分かった。
その、「か…」の後に続けようとした言葉がすぐに分かった。
オヤジと母さんはよく食べ歩きが好きで、うまい店があると家族サービスとかいってはよく連れて行ってくれてたんだよ、俺と姉ちゃんを。

オヤジは「うまくないなぁ、母さん」って
いつもの癖でついつい言ってしまうところだったんだろうね。
俺は黙ってた。姉ちゃんも黙ってた。
俺は泣かなかった。泣けなかった。黙って食べてた。
何かしゃべったら俺も崩れてた。

今日の夕方もむしむしと暑くて、地元のスーパーはいつも通りにぎわっててさ… 思わず寄ったよ。
特売のトウモロコシと枝豆売り場には主婦が沢山いてね
その中に母さんいるんじゃないかって、バカげた子供みたいな考えに変な期待持っちゃって。
「アツシ、トウモロコシ買ってきたから茹でてあげるからね~ッ!」
って、 一昨年の夏みたいに、笑う母さんの顔が見たかった。
こんなクソ暑い夏に、リビングで寝っ転がりながらトウモロコシを食う俺の行儀悪さをうるさく言う母さんの声が聞きたかった。

ああいうのを本当は小さな幸せって言うんだろうね。
けど、小さすぎて当たり前すぎて見えないんだよ。
いなくなってしまってから初めて分かるんだ。
それがビー球みたいにいろんな色があって綺麗で素朴でキラキラしてるって分かるんだよ、きっと。

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