大卒から勤続8年目。
俺は上司含め、同僚が苦手。
というかあまり好きではなかった。
ワイワイと騒ぐ職場で馴れ合いもせず昼飯や飲みも付き合いはするが
仲良い同僚なんてのもいなかった。
そんな俺の性格を理解してか周りもあまり俺に
近づいてこようとはしなかった(仕事外ではね)。
ある日外回りから帰ってさっさと席につきコツコツと
事務処理をやっていた時の事上司が近づいてきて
『〇〇く~ん、この間の件ゲットできたらしいな。よくやった!』
……普段どんないい事しても
褒めもしない上司が褒めた。
しかも超笑顔。
さらに部下が
『〇〇さん、明日某客先に行くんですけど
教えてもらえますか?』
って普段怖がってか俺に聞かないで
俺より下の奴に質問してる。
おちゃらけな若者が俺に質問してくる。
とどめに女の子がコーヒーを持ってきてくれたり
明らかに俺は優遇されすぎていた。
おかしい……
この時期に昇進か?
まさか転勤!?
妻子も家もあるのに って考えてたらやたら背の低い影が俺に近づいてきた。
息子だった……
びびって椅子から転げ落ちた。
どうやら幼稚園で父の仕事を発表する事があるらしい。
聞いてない のは俺だけで嫁が事前に上司に許可もらってたと
それで皆おかしかったのか。
息子もなんだか嬉しそうだしいいのかな……。
普段の俺を見たら寂しそうだなぁとか思ってただろうな。
その夜飲み会があった。
今回の件、課長が根回ししてくれてたり
うるさい若者が自ら話しかけにきたいと
言った事とかいろいろわかった。
泣けた。
それからは仕事に感情をだせるようになった。
仕事が、職場が楽しいと思えるようになった。
そして息子の発表会には行けなかったがとても誇らしげに語ってたみたい。
皆大好きだ!
いつでも会えるってことは当たり前じゃない
子どもの頃夏休みになる度に母方のばあちゃん家に遊びに行っていた
ばあちゃん家は車で2時間くらいの山の中の集落
じいちゃんはとっくに死んでて一人暮らし
近くにおばちゃん夫婦が住んでて面倒みてた
俺が遊びに行く度にばあちゃんは喜んで
あれこれご馳走してくれた
俺専用のおもちゃ箱が置いてありプラスチックの野球セットとか虫かごとかが入ってた
『すぐ遊べるように洗っておいたよー』
ばあちゃんはニコニコしながら言ってた
すぐ裏手が山だったのでカブトムシなんかもたくさんいて
ばあちゃん家は結構お気に入りの場所だった
でもそれも小学校高学年まで……
学校の友達と遊んでたほうが楽しいし
まして中学に入れば部活もあったし自然とばあちゃん家訪問は
夏休みの行事から消えていった
最後に行ったのは小5の時だったと思う
そんなのが寂しかったのか夏休みが近くなる度に
ばあちゃんから電話がかかってきた
母親から
『たまに顔見せてこい』
とも言われてた
その度に
『う~ん』と生返事をしやり過ごしていた
少しわずらわしくもあった
毎年そんな感じで中学、高校の夏休みを過ごし俺は大学生になっていた
大学3年の夏休み8月になったばかりの昼頃だらだら寝てた俺は母親から叩き起こされた
ばあちゃんが亡くなったらしい
その日、おばちゃんがばあちゃん家を訪ねたところ台所で倒れていたらしい
亡くなったのは前日の夜
くも膜下出血との事
ばあちゃんの遺体が夕方、病院から戻るとの事で母親と妹の3人でばあちゃん家に向かう
車は俺が運転した
なんか現実感がない
ぼーっとしている
母親は助手席で黙りこくっている
妹は後ろで泣いていた
夕方頃
ばあちゃん家に着いて遺体と対面する
10年ぶりくらいの対面
でも、ばあちゃんは冷たくて、白くて、小さい
泣き出す母親と妹の横で俺はやっぱりぼーっとしてる
頭にモヤがかかった感じ
涙は出てこない
(俺って冷たいのかな?)
そんなことを思ったりしていた
なんとなく居たたまれなくなって庭に出てみる
庭の隅にあるばあちゃんの納屋
子どもの頃よくここで遊んで怒られた
中に入ってみるといろんなものが置いてある
全部、ホコリまみれ
このホコリの匂いは子どもの頃と変わらない
足元に俺のおもちゃ箱を見つけるプラスチックのバッドボール、
虫かご、ミニカー……
『?』
次の瞬間気付いたこれ一つもホコリが付いてない!
慌てて箱を抱えておばちゃんの所へ駆け出す
『おばちゃん、これ……?』
おばちゃんは最初怪訝な顔をしてたけど
俺の聞きたい事に気付いて
『それはねぇ、ばあちゃんが毎年、夏になると洗ってたのよ
Mちゃん(俺)がいつ来ても遊べるようにって…
もう、そんな年じゃないよって言ったんだけどきかないのよねぇ』
おばちゃんは泣いたような笑顔だった
初めて泣いた
もう箱を抱えて
座り込んで大声で泣いた
10年もばあちゃんは俺を待ってた
俺のおもちゃを洗いながらずっと待ってたのに……
『遊びにおいで』
何十回も言ってたのに なんでこんなに人は人のことを想い続けられるんだろう?
そして俺はそんな想いをこんな風に形にして目の前に出してもらわないと分からない
自分がくだらなくて愚かな人間に思えた
ばあちゃん、ごめんなさい
いつでも会えるんだからと後回しにしてたばあちゃんがいることが当たり前だと思ってた
それがずっと続くことが当たり前だと思ってた
ばあちゃん……
ほんとにごめんなさい