俺の親父は片腕が義手であり国の援助や、
親戚に頼ったりしながら2人で細々と暮らしていた。
親父は昔、大工だったためか頑固で、
厳しく無口な昔ながらの親父だった。
そのため僕は小さい頃から
遊園地に連れて行って貰ったり
一緒に遊んだりといった
思い出がなかった…
その代わり休日になると2人で一緒にイスを作ったり
棚を作ったりしていた。
それが僕にとって唯一の楽しみだった。
そして木を切ったり釘を打っていると昔を思い出すのか、
『父さんはなでっかい家を建てて庭に立派なソメイヨシノ
って桜の木を植えるのが夢だったんだ。叶えられなかったけどな。』
そんなことを言って笑いながらも悔しそうに、
義手の腕を見ながらぼやいていた。
そんなある日俺は学校で運動会がある事を
おやに言うべきか迷っていた。
友達に親父の義手を見られてからかわれるのを
心配していたからだ。
すると親父が
『そろそろ運動会の時期じゃないか?』
と聞いてきた。
俺はしばらく黙った後、
『来なくていいよ…』
と言った。
『わかった…頑張れよ』
と言って親父は行きつけの飲み屋に行った。
その時親父は俺が義手を恥じている事を
わかってたんだと思う。
それがきっかけで二人の間に距離ができ、
顔を合わせない日も増えた。
当然楽しみだった2人での週末の
日曜大工もしなくなった。
そんな関係が続き俺はいつの間にか中学2年になっていた。
ある日、部活が終わり家に帰り
玄関を開けると親父の義手が転がっていた。
不思議に思い親父の部屋をのぞくと、
親父が横たわっていた…。
脳梗塞だった。
あっけない死で涙も出なかった。
その後俺は親戚の家を転々とし、
親父の残したわずかな保険金で高校に入り
無事に卒業した。
卒業後は親父の影響なのかどうか
迷うことなく大工の道に進んだ。
親方が偶然にも昔の親父の同僚で俺はその親方の仁さんを、
本当の親父のように慕い仁さんも俺によくしてくれた。
そして俺は29になり高校の同級生だった由樹と結婚した。
由樹のお腹には5ヵ月になる子がいる。
そんな幸せな生活を送っていたある日、
仁さんが仕事終わりに飲みに誘ってくれた。
仁さんが連れて来てくれた店は親父の
行きつけの飲み屋だった。
そして仁さんはいつになく真剣な顔をして話はじめた。
『本当は絶対話すなと言われてたんだが…
お前ももうすぐ親父になるし話してもいいよな』
俺はすぐ親父の話だと気付いた。
仁さんは全部を話してくれた。
まだ幼い俺をかばって事故にあい右腕を失ったこと…。
それが原因で大工を辞めざるをえなかったこと…。
俺にばれないように遠くから運動会を見ていたこと…。
涙が止まらなかった。
悔しくて涙が止まらなかった。
俺は最後まで親父に助けられっぱなしだったんだ……。
その年の冬無事に娘が生まれた。
名を佳乃(ヨシノ)とつけた 。
そして俺は今仁さんの指導のもと、
怒鳴られながら自分の家を建てている。
皆で一緒に住めるでっかい家を…。
未完成の家の庭には立派なソメイヨシノが立っている。
家が完成する頃には綺麗な花を咲かせてくれるだろう。