俺の近所には2つ上の姉ちゃんがいた。
その姉ちゃん空手の段位保持者で小学生の俺から見れば最強の存在だった。そして可愛かった。
生まれつき茶髪で虐められていた俺を助けてくれて、喧嘩の仕方とか教えてくれた。
ある日虐めていた奴らを返り討ちにしたとき俺はそのことを報告しにいった。
「いい?○○(俺の名前)。人が暴力に訴えていいのは最終手段だよ?
すぐに腕を上げるのは男として最低だからね!」
彼女がそうやって俺に教えてくれたことを今でもちゃんと覚えている。
高校に入ってすぐ俺が告白して、姉ちゃんと付き合った。
もちろん彼女と喧嘩しても力で勝つことはできなかったw。俺の心の中でやっぱり最強の存在だった。
そんな彼女と17歳のとき、俺は寝た。
初めて女を知った日だった。最強の彼女はやっぱり女だった。
そのとき彼女はキャスターマイルドを吸っていて
「体に悪いから二十歳になるまで吸っちゃ駄目だぞ~」
19歳のくせにそんなこと言うと煙をふかしながら彼女は言った。
そして彼女を追いかけるように同じ大学を受験、そして合格。
同じ大学で彼女と楽しい時間を過ごしたかった。過ごすはずだった。
入学式1週間前、彼女は死んだ。交通事故だった。
最強の存在だった彼女はあっけなく死んでしまった。
通夜のとき彼女の棺桶に沢山のキャスターを入れてやった。不思議と涙は出なかった。
そして普通に学校に通って成人式を迎えた。友達と酒飲んで酔っ払って帰宅している途中だった。
タバコの自販機を発見。彼女の言葉が思い浮かぶ。
近寄ってたどたどしい手つきで小銭を投入。
キャスターマイルドのボタンを押す。
家に帰ってからく暗い部屋の中タバコに火を点した。
吸い方がわかんなくて思いっきり吸って、むせた。
そして、もう一口恐る恐る吸ってはいた。
彼女の匂いだった。
涙が出た。思い出、温もりが走馬灯のように頭をかすめ。ただ泣いた。
今までためてきたものを全部流すように泣いた。
そんな俺は今21歳、吸ってる銘柄はもちろんキャスター
彼女の命日になるとキャスマイを2箱買って、1つは墓前にもう1つはゆっくり時間をかけて吸いきる。
そうすれば彼女がすぐそばにいるように感じるから。
昨年の夏休みの話
会ったこともない遠い親戚の葬式。親父が出席するはずだったんだけど、どうしてもいけなかったので俺が代わりに出席することになった。
新幹線乗って田舎町へ。
周りも見たことない人しかいないので、重い空気に沈鬱していた。
葬式が終わり退出しようとしたとき、出口で見知らぬ婆さんに突然腕をつかまれた。
けれども、つかんだきり何も話さず目を丸くしているだけ。
かなりの高齢だったのでぼけているのかと思い、何でしょうかと質問すると、○○さん?○○さん?としかいわない。やはりぼけているのだろうかと思い、周りをみても誰も知り合いがいる様子にない。
この人も俺と同じく遠縁のひとらしかった。
婆さんは俺を見ながら「あんれえ帰ってきて下さったん、まっとっ…」と黙り込んでまたしばらく動かない。
すると今度は婆さんに食事に連れて行かれた。お腹も空いていたので一緒に食事をすることに。
食事中、婆さんは昔話ばかりしていた。食事の後も俺はあちこちに連れまわされた。
この建物はいつ作られただとか、あの建物はなくなったのとかそういう話ばかり。
俺は特に語らず、聞き手になっていた。
帰りの新幹線の時間もあるので、婆さんにそのこといって別れようとすると引止めにかかられた。
もういってしまうのか、今度は直ぐに帰ってくるのかと聞き取りにくい方言で何度も俺に聞いてくる。
めんどくさかったので、また直ぐに会えますよと返事をしつつ別れることになった。
婆さんは駅まで一緒に行くといい、途中何度も行かないでくれといわれ、引きとめられた。
結局、新幹線には乗り遅れた。散々な目にあったと思い帰宅。
数日後、また親戚の葬式の連絡。今度は親父がこの間よりも近い親戚なので俺にも来いという。
バイト仲間にまた葬式かと冷やかされて葬式にいった。
そうしたらなくなった人はあの御婆さんだった。
驚きつつも、そうか、亡くなったのかぐらいにか思っていなかった。
葬式の喪主は婆さんの弟がおこなっていて、どうやら婆さんはずっと独身らしかった。
式後改めて喪主の人に会いにいくと、婆さんの弟は俺をみて驚愕し、また○○さんと間違えられた。
亡くなった婆さんにもそういわれたことを教えると、いつ会ったのだときかれ、まえの葬式で会い、食事やら散歩したことを話した。そうしたら弟の爺さんが泣き出して、少し待っていろという。
しばらくして爺さんが写真を持ってきた。
その写真には俺が写っていた。
写真は白黒でかなりぼろぼろであったが、ゲートルをまいて国民服を着た俺がたっていた。
そして隣には十代後半に見える女性がいた。良家のお嬢さんに見える。
爺さんは話してくれた。その女性はあのお婆さんで隣の俺そっくりな人は○○ということ、戦争が終わったら結婚するはずだったこと。
終戦後その人は帰ってこなかったが婆さんは帰ってくるといい続けたこと。
婆さんは戦後の農地改革で家が没落し、結婚を薦められても頑なに拒否したらしかった。
お婆さんが死ぬ直前弟であるその人に、やっとあの人が帰ってきてくれた、今度は直ぐ戻って来るんだと嬉しそうに語っていたらしい。
弟のお爺さんは死の直前に幻覚をみているのだとしか思っていなかったが、そうじゃなかった、あの人の生まれ変わりが最後に会いに来てくれたんだと号泣しながら語り、俺に何度もありがとう、ありがとうと言っていた。
俺も涙が止まらなかった。
お婆さん、今頃おれのそくっりさんと天国で寄り添っているのだろうか。
またいつか、お墓に花を添えに会いに行くよ。